あなた

一人の夜は、あなたのことを思い出す。 一緒に海へ行ったこと。 面白い写真を撮って笑ったこと。 大雨に降られて立ち往生したこと。 おいしいものを食べたこと。 私と出かける時には洗車してくれること。 お揃いでビーチサンダルを買ってくれたこと。 熱が出…

今日乗った電車に、蝶が乗っていた。 その蝶は人と人の間に立ち、静かに静止していた。次の駅で、ご老人がそっと蝶を掴んで降ろしてやったら、蝶はひらひらと飛んでいった。急行列車だった電車は、蝶を3駅先まで運んだ。降り立った蝶はベツノセカイで生きて…

鰓呼吸

例えば、朝になったら私物が全てなくなっているような狂気。そのような感覚に、きっと今も怯えているのだと思う。 何も言わないことを覚えた私は、大人になったのだろうか。結局、言いたいことは言えないし、聞きたいことは聞けないのだ。濁った水の中で、静…

奥の洋間には、グランドピアノがあった。 父は時々、照明を落として、薄暗い部屋でウィスキーを片手にジャズを弾いていた。自分で作曲した、切ない4拍子。 幼い私は、なんとなくその部屋に入れなかった。ガラス張りのドアの向こうから、そっと父を見ていた。…

滲む夜のラインクリシェ

ただひたむきに、やるべきことがある気がして けど足早に、メロディーのないクリック音で まぁそれなりに、慣れてしまったんだ いとことなげに、何もなく装うのも さぞ悲しげに、ここには出せない 否ほんとうは、くすぶっているのか もう戻れない、できない…

2018.04.19.

https://youtu.be/CB4EgdpYlnk

closer

近くへ。 ただ近くへ。 心の距離は行ったり来たり。 夢までの道は遠く遠く。 シーソーのように上がったり下がったり。 チークダンスのように近かったり遠かったり。 何かを求めてもきっと意味はなくて、 私に差し出せるものは何もなくて、 お金も、美しさも…

2018.02.02.

二人で写真を撮ろう 懐かしいこの景色とあの日と同じポーズで おどけてみせて欲しい 見上げる空の青さを 気まぐれに雲は流れキレイなものは 遠くにあるからキレイなの 約束したとおりあなたとここに来られて本当に良かったわこの込み上がる気持ちが 愛じゃな…

for you

もう言葉は届かない。 もう声も届かない。 もう顔を見ることもできない。 それならば、 どうやって伝えたらいいのか。 どうやって償えばいいのか。 もう何も出来ないのだと諦めてた。 でも。 言葉を交わしたい。 声が聞きたい。 顔が見たい。 私を疑ってても…

懺悔

父に逢いに行った。 逢わなければならない気がした。 強い衝動が私を動かす。 涙も、愛おしさも、携えて。 後悔も、反省も、従えて。 雪に埋もれた其処は、 誰もいない其処は、 ただ静かに、ただひっそりと、 私が来るのを待っていたようだった。 何時間もか…

罪と罰

懺悔。 1時間、言葉を浴びる。 何かを断つのは、 貴方の傷が癒えるように。 言葉が言葉の意味を持たないなら、 言葉以外の何かが届いてほしい。 でもそれは私の贅沢なのかもしれない。 貴方の幸せを、 貴方の笑顔を、 ただそれだけを祈るしかないのかもしれ…

朝の色のアンバランス

明け方に見る空は、 濃紺のグラデーションが滲んでいて、 あまりにも美しく、 たまらなくさびしく、吐く息が白い。 私の中には、何の言葉もない。 こみ上げるのは声にならない想いで、 誰にも言えないから飲み込む。 言えないから喉が詰まる。 乾いた咳ばか…

呼応

眠れない夜は、夢を数える。心が震えるのは、本当はわかっているから。涙が出るのは、また会いたいから。思い出すのは、私を呼ぶ声。絡まった時間をほどいていけば、あの曲のように私を見つけてくれて。ずっとそんな夜を待っていて、本当に目の前に現れた時…

夜の過ごし方

夜の長さを測っても、あまりに短く感じてしまうのは、楽しいからではなくて、急かされすぎているからだと思う。何かを忘れていくように急いで、沈黙を守るように急いで、矢のように過ぎていく日々に、私の心は取り残される。静かな夜に身を任せたい。少しの…

いいたいことといえないこと

静かな夜、答えを探すと理由に辿り着く。でもその理由は自分の中に帰結していると気づいて、途方に暮れる。何も探せない私は、読み終わった本のように行き場がない。タイミングも、傷つく事も、まるで全てが番狂わせで、やるせない。寂しい夜、それは大停電…

Life

流れる川に足を浸して、繰り返す都会の喧騒と静寂を私は観ている。送電線が這う空は真冬の高さ、月が近い。ただ早く過ぎて欲しいと思うような日々も、ほんのささやかなことだけの毎日も、こんな何気ない日々の営みが重なって、人生があるんだと、小さなこと…

オルゴールを巻き戻せば。

時間のネジを巻くことに急いでいた。早送りの世界は艶やかに感じた。誰もが早足に見えて、私の歩幅は小さかった。だから気づかなかったのかもしれない。止まった時間を手繰り寄せて。オルゴールを巻き戻せば。あの頃のような切ない響き。濃い夜の蜜の味。逢…

鍵と錠

濡れている窓を見て、雨の存在に気づく。また、音もなく世界がゆっくりと濡れていく。ある本にこんなことが書いてあった。「言葉は情報を伝える道具であり、人間関係を円滑にするための道具である」。「しかし言葉の本質は別のところにある。この世界を認識…

深く深いメロディー

かつて何かを捜していた。それは長い迷宮の先にあるのか。それは瓦礫の中に埋もれているのか。暗くて孤独な町の路地裏で、寒さに震えていた。貴方はそんな夜の町に灯ったあかりのようだった。真夜中に突然降った、流れ星のように美しかった。私の町には色が…

sea shore

気づいたらひとりだった。海岸線に沿って歩いて、かつての自分をなぞった。 誰もが心の中に深い海を抱えている。寄せては返す波のように、気持ちは泡立つ。攫われた言葉たちが、もう戻らない時間を呼び起こす。貴方の中で、私はあまりに小さかった。此処は何…

眠りのエトセトラ

そもそも「眠り」に心地良さを含めて味わえるようになったのが最近のことであるから、そのせいかもしれない。しかしそれにしても私の眠りの周りには、シンプルかつ機能的なものしか並べられておらず、改めてこうして眺めるとなんとも魅力に欠けて見えるので…

33

恥ずべき人生だった。それでも一生懸命だった。こんな私に「明日」は来ないのかもしれない。もしも来なかったら、長い長い懺悔の旅へ。どんな言葉でも言い表せない想いを抱いて。もしも来たら、言葉より行動で。とても語りつくせぬ想いを抱いて。愛おしさを…

mirrors

ずっと心を占めていた命題があった。それは日々、私の思考の中に漂い存在感を放ち続けていたにもかかわらず、私は見えないふりをしていた。それに拘ることが馬鹿げているような気がしたからだ。しかしそれは、いつも私の中にいた。私を悩ませ、苦しめた。も…

霜降る季節、滴る清流の飛沫を浴び、日 高く昇り出づる頃、いにしえの社に還り着く。諸行を見給わりし大樹の下、補完されし情と業と輪廻を仰いで、此処に天命をひとつ授かる。其れは麗しき幾千年の記憶。其れは美しき約束の地。よもや詞なき満ちし思惟は、ま…

gift

気がつけば、今日はクリスマスだった。 小さい頃の様な興奮を、いつからか忘れていた。それでも無条件に部屋に射し込む光の一筋に、祈らずにはいられなかった。幾多の泪の夜に、私の経験があった。幼さの残る口唇に、私の背信があった。誰も知らない家出に、…

in my bed

病を患って2週間。この原因を思案して2週間。これからを案じて2週間。短いのか長いのかわからないけれど、不思議とこの時間を慈しんでいる。体力の低下、少し疲れると横になる。毛布にくるまる心地良いこの季節に愛おしさを感じる。バランスの尺度は難しい。…

20%が問うもの2

実際、言葉は全体の10%未満しかその役割を果たさない。人は会話をしながら相手の仕草や表情で90%以上を読み取っている。ならば言葉の重要性はどこにあるのか。カフェで1人仕事をしていると、周囲の会話が耳に入ってくる。会話とは基本的かつ絶対的なコミュニ…

20%が問うもの1

立ち読みした本のある一行について、今もぼんやり考える。「あと20%自分を磨くとしたら、何をしますか?」だ。自分の生活をざっと振り返ってみて、ある程度の維持や向上を意識していることを確認すると、漠然とした不安と疑問が残る。ある映画で私の好きな女…

コンプレッサー

たまに得も言えぬ悲しみに襲われて、一人部屋の隅で背中が痛くなるまで泣く時がある。心の奥にどうしようもない闇があって、何かのきっかけでそれが顔を出すみたいだ。その時の私は、人生において自分が抱えてはいけないくらいの重いものを抱えてしまったよ…

還る場所と変える場所

秋の訪れは、少し肌寒い夕暮れの風に感じる。あの温度のひっそりとした冷たさに、またこの季節が来たと、脳裏の記憶は一気に蘇る。なんでもないのに泣きたくなるのは何故だろう。大切なものたちをのせた掌を、力の加減がわからない子供のように、ぎゅっと握…