2015-01-01から1年間の記事一覧

gift

気がつけば、今日はクリスマスだった。 小さい頃の様な興奮を、いつからか忘れていた。それでも無条件に部屋に射し込む光の一筋に、祈らずにはいられなかった。幾多の泪の夜に、私の経験があった。幼さの残る口唇に、私の背信があった。誰も知らない家出に、…

in my bed

病を患って2週間。この原因を思案して2週間。これからを案じて2週間。短いのか長いのかわからないけれど、不思議とこの時間を慈しんでいる。体力の低下、少し疲れると横になる。毛布にくるまる心地良いこの季節に愛おしさを感じる。バランスの尺度は難しい。…

20%が問うもの2

実際、言葉は全体の10%未満しかその役割を果たさない。人は会話をしながら相手の仕草や表情で90%以上を読み取っている。ならば言葉の重要性はどこにあるのか。カフェで1人仕事をしていると、周囲の会話が耳に入ってくる。会話とは基本的かつ絶対的なコミュニ…

20%が問うもの1

立ち読みした本のある一行について、今もぼんやり考える。「あと20%自分を磨くとしたら、何をしますか?」だ。自分の生活をざっと振り返ってみて、ある程度の維持や向上を意識していることを確認すると、漠然とした不安と疑問が残る。ある映画で私の好きな女…

コンプレッサー

たまに得も言えぬ悲しみに襲われて、一人部屋の隅で背中が痛くなるまで泣く時がある。心の奥にどうしようもない闇があって、何かのきっかけでそれが顔を出すみたいだ。その時の私は、人生において自分が抱えてはいけないくらいの重いものを抱えてしまったよ…

還る場所と変える場所

秋の訪れは、少し肌寒い夕暮れの風に感じる。あの温度のひっそりとした冷たさに、またこの季節が来たと、脳裏の記憶は一気に蘇る。なんでもないのに泣きたくなるのは何故だろう。大切なものたちをのせた掌を、力の加減がわからない子供のように、ぎゅっと握…

巡礼の夜

どこか静謐なる道程を、歩いているように感じる。新しい土地を踏む時、しかし同時に何かをなぞるような既視感も漂う。清くも古いいつかの約束を果たすように、また今を刻む一歩でもあるように、二重螺旋の階段を少しずつ進む。遺伝子に組み込まれているよう…

月の砂漠

私が想いを馳せる時、脳裏をよぎるのは何故かいつも、焦熱の砂丘だ。旅する商人が初めて出逢ったようなスパイシーな香りと、異国の地の音楽。夜の深間に陶酔し、乾いた砂に高揚する。焼けた肌の下に流れる紅い生命は、揺らめく暑さの中で脈動する。枯渇した…

線香花火

iPhoneが壊れた。データが消えた。からっぽのそれをバッグに入れて乗った銀座線、ささやかな喪失感と、少しの自由の間で揺れていた。冷えきった地下鉄の中。近付いたと思ったらまたすぐ離れてしまうように。瞬きをして、また捜すように。夏の足音が聞こえて…

Good shoes take you to good place.

読むことも書くこともせずに、教えることに専念していた数ヶ月。自分を追い込むことと、そこで発揮できる何かを見つけようとしていた。OFFに履きたい真っ白のビーチサンダルは、まだその出番を待っている。現場にはリアルな「日本の今」がある。メディアでも…

とある小さなクロニクル

色褪せた庭に、そっと花を植えてくれた人がいた。光と影のバランスが変わり、色と色の縁取りが際立つ。Cm7のような心地良い響き。ジョハリの窓が開いていく。全ては必然で、寸分の狂いもなく天体観測のように廻り巡る。けれど其れは、あたかも偶然のように巻…

『人魚 』 2

そんな彼も今は何処にいるのかわからない。けれど夜な夜な繰り広げられた、どうでもよくて、とりとめもなくて、根拠もなければ結論もない会話は今も思い出す。「人間がサルから進化したって本当かしら?」「僕は違うと思うよ」「どうして?」「歴史の教科書…

『人魚 』1

ジャズが流れるさびれた酒場。ところどころ、裂けた布地が繕ってある深紅のビロード張りのソファ。安い酒の臭い。ガラスの灰皿。ジッポのオイル。甘い煙のシガレット。私は全身ずぶ濡れで此処に辿り着いたが、この黒くて身体に張り付くワンピースも髪の毛も…

Light

言い忘れたことがある気がして、それを捜す為にライトをつける。けれどそれは人工的採光。 薄ぼんやりしていても、自然発光には無言で共有できる感情がある。そして夜の光は、どれも潤んで見える。俯瞰している私の、心の状態が写されているからだ。なんでも…

素数というメトニミー

ある記号が何かの意味を持つ時、其れを所記と能記の恣意的関係という。言語は、文字の無数の配列に規則的な恣意性を含ませたもので、概念の枠を生み出す。然し意思疎通の道具である筈の記号は、使えば使うほど本質と離れていく時がある。煩雑かつ無常な施行…

路地裏にて、箱を開けたら。

まばたき。その瞬間に、揺れる概念。揺さぶられる一瞬の潤む感覚。遠くから聞こえる声。何処に行けば良いかは解っている。傷ついた身体は、癒しを求めてまるくなる。小さく小さくまるくなる。重なった時に行き場を失くした思いを、痛感した自分の幼さを、弱…

eye

みることはみつめること。みつめることはしること。しることはきづくこと。きづくことはすすむこと。すすむことはあたらしいこと。あたらしいことははぐくむこと。はぐくむことはやさしいこと。やさしいことはすなおなこと。すなおなことはよわいこと?よわ…

夜の唄

夕方のこと。テレビから懐かしい曲が聴こえてきた。これは父が大好きだった曲だと突然思い出した。遠い昔、洋間にあったボルドーのグランドピアノ。ウィスキーを片手に薄暗い間接照明の元、父は夜にピアノでこのメロディーをなぞっていた。私は耳を澄ませて…

観覧車に乗せた忘れ物

私は、自分の不甲斐なさと闘う。もしも明日私が消えてしまっても、誰も困らなければ良いと思う反面、誰かには気づいて欲しいとも思う。居場所に依存したくないと思う反面、何処かに拠り所が欲しいとも思う。自分の不甲斐なさを噛み締める。奥歯が軋むほど、…

言葉論(デュークの庭編)

犬のデュークは散歩が好きで、飼い主が連れて行ってくれるお気に入りの原っぱがある。デュークはよくその原っぱへ行き、ハーネスを外して貰い、自由に遊ぶ。原っぱは陽当たりが良く草の匂いと穏やかな風に満たされ、妨げ無く走り回ることが出来た。飼い主は…

prelude

例えば、指と指が絡み合うだけで溢れ出す感情が在る様に、音と音が絡み合う事で何処までも深まって行く音響的調和が在る。時間を追いながら編まれて行く主旋律は、時間が止まったかのごとき心地良さを同時に紡ぐ。みぞおちを疼かせる渦。脳内神経を溶かす真…