オルゴールを巻き戻せば。

時間のネジを巻くことに急いでいた。
早送りの世界は艶やかに感じた。
誰もが早足に見えて、私の歩幅は小さかった。
だから気づかなかったのかもしれない。
止まった時間を手繰り寄せて。
オルゴールを巻き戻せば。
あの頃のような切ない響き。
濃い夜の蜜の味。

逢いたくて逢いたくて、星に願った。
愛しくて愛しくて、泣いた宵の空。
何度も何度も、枯れた声で呼んだ名前。
水に燃えたつ蛍、心を引き裂くように。
そして私は言葉を失った。
いや、言葉を捨てたのか。

言葉のない世界で、私は何ができるだろう。
言葉ではわからない幾つもの夜があって、
わからないことがわからなかった。
言葉がないことはとても怖くて、
裸になったようだった。
伝わらなければ意味がなくて、
でも、伝えたかったんじゃなくて、
きっと、わかりたかったんだ。
雨降って、地固まる。
この想いを花束に。
また時間が動き出す。
今度はゆっくりとゆっくりと。
こんな小さな私ができることはとても少ない。
私はあまりに儚い。
それでもこの世界で逢えたこと。
真っ直ぐに見つめること。
誠実に向き合うこと。
純粋に想うこと。
同じ気持ちで寄り添うこと。
同じ時間、繋がっていたい。
今よりも、優しくなりたい。


言葉がない夜は、泪が出る。
あまりに静かで、面影を捜す。
逢いたくて逢いたくて、
今夜も星に願った。
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