還る場所と変える場所

秋の訪れは、少し肌寒い夕暮れの風に感じる。
あの温度のひっそりとした冷たさに、またこの季節が来たと、脳裏の記憶は一気に蘇る。
なんでもないのに泣きたくなるのは何故だろう。
大切なものたちをのせた掌を、力の加減がわからない子供のように、ぎゅっと握りしめてしまいそうになる。

ふと強い衝動に駆られて、1人になるための場所へ足を運んだ。トンネルを抜けると気配が変わる。私はその瞬間が好きで、此処では幼い頃のような剥き出しの自分も赦されるような気になる。生の感情は時に見るに堪えない。だからこそ、時間と場所を用意して向き合わなければならない日がある。
甘くて苦い心情を清流で洗い流す。
ばらばらだった自分を拾い集める。
忘れかけているものを思い出す。
そして、少しだけ自分を許す。
もしもこのまま…と想像する自分を許す。
存在の小ささを確認すると、誰かにも優しくなれる気がする。

ゆっくりと訪れる睡魔のように、帰りの電車に滑り込む。
秋の風が背中を押す。
いつだって私は還る場所を捜してる。
自分の弱さに打ちひしがれる。
私が向かいたい場所は、還る場所でもあり自分を変える場所でもあるのかもしれない。
其処は美しいだろうか。
其処は穏やかだろうか。
此処は、何処だろうか。
秋の風がまた頬を撫でて、私は足元を確認する。
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