深く深いメロディー

かつて何かを捜していた。
それは長い迷宮の先にあるのか。
それは瓦礫の中に埋もれているのか。
暗くて孤独な町の路地裏で、寒さに震えていた。
貴方はそんな夜の町に灯ったあかりのようだった。
真夜中に突然降った、流れ星のように美しかった。
私の町には色が宿り、新しい世界を知った。

視界が開けたら、そこに海があった。
私の寂れた町にも、深く深い蒼が佇んでいた。
いつも聴こえていたあの音は、波のさざめきなんだとわかった。
誰も踏んだことのない砂を蹴って、
裸足の感覚に心は踊り、
罪と罰を浄化する澄んだ水の中で、
子供のように無垢な心で、
しっかりと手を繋ぐ。
そしてはっきりと認識する。
私が知りたいことを知るために、既に歩き始めていることを。
真っさらな砂浜に残るふたつの足跡。
その歩幅を合わせて、歩いていきたいことを。
ほら、波間で聴こえてくるあの小さなメロディーが、これからどんな音色を紡ぐのか。
刻一刻と変化していく互いの存在が、これからどんな形になっていくのか。
それができる唯一無二の相手であることを、
静まり返った夜の町でみつけたことを、
揺るぎないものを教えてくれたことを、
穏やかな時間をくれたことを、
絶えず注いでいきたい想いを、
幾千の夜を越えて、
小さなメロディーを交わしていけるように、
互いの道標になれるように、
目に見えないものを育てて、
あたたかい場所にたどり着けるように、
ひたむきに、
一生懸命、
大切にしていきたい。

潮風が頬を撫でる。
暮れていく空の下で、
高い波を仰ぎ見ながら、
心が静かに満たされる瞬間を教えてくれた手を、
もう一度、しっかりと繋ぎたい。
f:id:saya34363856:20160906094626j:image