『人魚 』 2

そんな彼も今は何処にいるのかわからない。
けれど夜な夜な繰り広げられた、どうでもよくて、とりとめもなくて、根拠もなければ結論もない会話は今も思い出す。

「人間がサルから進化したって本当かしら?」
「僕は違うと思うよ」
「どうして?」
「歴史の教科書に載っていたように、サルから類人猿、類人猿からクロマニヨン人…と進化していったなら、どうして現代には進化途中のサルがいないんだ?今だってサルと人間の中間の存在、進化途中のサルがいたって可笑しくないのに、実際にはサルはサル、人間は人間、2つしかいないだろ。人間とサルは別物さ」
「じゃあ人間とサルの違いは何かしら?」
「人間は神を信じる、あるいは目に見えない何かを。それだけの違いだよ」
「大体の宗教においても、神が人間を作り出したって言うわね。もしも進化論が絶対的な信頼と確証を人々から得ているなら、誰も宗教に溺れたりしないわ」
「人は、科学のような立証できるものを追究していくくせに、曖昧なものだって平気で信じるのさ」
「理想に達しない現実を否定することが楽なのね」
「結局のところ真実はわからないし、矛盾もまた当然なんだ」
「絶対的なものを覆す事は、内心はしたくないのよ」
「そう、それも矛盾。そしてこの会話もきっと矛盾だらけ」

無口なマスターがつまらなそうに作る酒。
ランプの傘が、煙草のヤニで黄ばんでいる。
小さく流れるジャズ。
何もかもがぼんやりとしている。

「そろそろ出ようか」
彼がチェックして席を立つ。
私も後に続く。

これは全て、私の妄想である。
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