prelude

例えば、指と指が絡み合うだけで溢れ出す感情が在る様に、音と音が絡み合う事で何処までも深まって行く音響的調和が在る。時間を追いながら編まれて行く主旋律は、時間が止まったかのごとき心地良さを同時に紡ぐ。
みぞおちを疼かせる渦。
脳内神経を溶かす真景。
かぎ針が糸を引っ掛けてはくぐらせ、連鎖して産出する模様と相俟って、白と黒の鍵盤を滑る指は肌を滑り、五線譜を滑り、雪の上を滑り、全てを統べる。
温度は感度を高め、降り積もる純粋な透明度を保つ。
此処は、こんなにも温かいのだと知る。

私の日々の営みは、来訪する音楽と共に更新されて行く。生活形態や関わりが変化すると、音楽も姿を変えて私の頬を撫でて小さく舞い降りて来る。
美しい前奏曲に出逢うと、それが風になって人生のページを捲ってくれた様な感覚を覚える。新しい音色はいつか思い出になる今を蘇らせる引き金になり、曲をなぞる度に必ず浮かび上がる様になる。
聴いて思い出す記憶は、何処か切なさを帯びた蜜の甘さ。だからこそ章を跨ぐ予感がある時には、耳にも気を傾けるのが私の主観的習慣の一つになっている。
その指でなぞる旋律。
その指でなぞるページ。
その指でなぞる背筋。
その指で奏でられる今。
今という、心が震える程の前奏曲
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