偽電気ブランと宵山の味

ブログ、コンスタントに更新しているが、読んでくれた人がどんなことを感じてくれているのかを知ることができない。素直な気持ちを書いている分、こんなことを考えているのは自分だけではないかと思うこともある。しかし今日、友人が「共感できる」と言ってくれた。
読んでくれていることだけでも嬉しいのだが、内容についても触れてくれ、とても貴重な感想を聞くことができた。
感謝の気持ちでいっぱいだし、これから書き続けるための励ましになった。
ありがとう。

今回は本のご紹介。

京都に行く前には、必ず読み返す小説がある。
森見登美彦氏の「きつねのはなし」だ。
秋から冬にかけての京都の一乗寺を舞台にした、短編である。
主人公の男子大学生が古道具屋でアルバイトを始め、その店のお客様である天城さんと関わるようになってから、奇妙な事態に巻き込まれていく。
京都の古風で静かな空気感や、残酷なシーンや生々しいシーンが全くないのにもかかわらず、ゾクっと悪寒が走るような恐怖感を、見事に表現している。
もともと彼の作品は京都を舞台に書かれたものが多く、ガイドブックとは違った京都の魅力を垣間見ることができる。

竹林のざわめき。
真っ黒な漆塗りの盆。
紅い蘭鋳。
からくり行燈
狐の面。
雪の日の神社の祭り。
夜店の林檎飴。

例えば「祭り」と聞けば、祭囃子の笛の音や提灯の揺らめきが想像され、「狐の面」と聞けばちょっと不気味で妖艶な雰囲気が想像される。
こういうイメージは日本人だからこその連想なのかもしれないが、そこにはしっとりとした美しさと情緒が漂う。小説というのは、文字だらけで白黒の世界なはずなのに、引き込まれると、途端にカラフルなイメージが浮かび上がる。
特にこの作品は、京都に代表される和の色合いが効果的に使われている。
さらには、ゆっくりと体内に入り込んでくるような胸騒ぎに襲われる。
自分の背後を、そっと誰かが通り過ぎて行くような恐怖感は、臆病な私でも堪らない。

旅のお供にはガイドブックもいいが、その土地を舞台に書かれた短編小説もいいものである。
魅力的な観光スポットもさながら、ちょっとマニアックな視点からの旅の妄想を楽しみつつ、偽電気ブランでも呑んでみようか。
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