トラベルデイズ

旅行の楽しみは、人によって千差万別だから面白い。
目的地、交通手段、季節、天気、行く人数、見たいもの、食べたいもの、感じたいこと…。
私はここ10年ほど、様々な事情から全く旅行に行けなかった。しかも今となっては驚きの心境だが、特に旅をしたいと思ってもいなかった。友人などの土産話を聞き、楽しそうだとは思っても、自分から行動するほどではなかった。
私が最も慣れ親しんでいたもの、それは紛れもなく「日常」そのものだった。

ところで、人の体内時計はどれだけ正確かご存知だろうか。
こんなデータがある。10代の男女にストップウォッチを渡し、ちょうど1分たったと思う瞬間にボタンを押してもらう。これと同じことを、60代の男女にもやってもらう。すると、10代は平均59秒65であるのに対し、60代は平均1分4秒39という結果になったという。
つまり、歳をとればとるほど、時間が経つのが早く感じるということに繋がる。
原因はいくつかあるが、そのひとつに、日々の反復に慣れることは、時間を短く感じさせるということがあるらしい。
少し違和感を感じないだろうか。
たいてい、楽しかったり忙しかったりする時間は早く感じ、退屈だったり同じことの繰り返しの時間は長く感じるものだ。
この理論は、子供の頃は新規に記憶させることが多く、記憶の固定には時間がかかるためにたくさんの時間が必要だが、大人になると日常のほとんどが同じことの繰り返しなので、新規に記憶させることが減り、時間が経つのが早く感じるということらしい。
私はどちらかというと、これまでその反復の日々を送ってきたのかもしれない。
もちろん、引越しや転職、人間関係などにもたくさんの変化があったが、非日常的なものを求める暇もなく、ここまでひた走ってきた気がする。

しかし去年あたりから、自分自身について見直すきっかけが現れるようになってきたと同時に、少しだけ旅行に行ける機会ができるようになった。
もちろんそこには、いつもの毎日の中では味わえないような楽しみが詰まっている。たくさんの発見や感動があり、刺激を受ける。そしてそれらは、確実に貴重な経験となる。
その凝縮された時間は、体感では楽しい分短く感じるかもしれないが、脳の記憶処理としては、時間がかかっているのかもしれない。
それに対し日常の反復の時間は、単調さを感じる時もあるかもしれないが、実際はあっという間に過ぎて行く。
日常と非日常、その行ったり来たりが人生にメリハリをつけ、自分の中のスイッチを押す良いタイミングになるのかもしれない。

だから私はこう考える。いつもの毎日の繰り返しの中に、旅行中のようなエッセンスを加えたら、濃度が上がりますます凝縮した時間を過ごせることになるかもしれない、と。
あまりにも詰め込みすぎるとスーツケースがパンクしてしまうので、そこは少しのゆとりを残しつつ。
いつもの日々と特別な日、いつもの日々と小さな刺激。
臆病な私の歩幅は小さいけれど、そんなことを考えながら、少しずつ歩いて行く。
そんな毎日。
トラベルデイズ。
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