23分後の衝撃

ジェームズ・クラベル氏の「23分間の奇跡」という小説をご存知だろうか。
児童書のような優しい語り口で、それこそ30分以内には完読できてしまうような短い話だが、読後の衝撃は凄い。
実際問題を問い詰めていくと、信憑性が高いとは言えないのかもしれないが、暴力や恐怖感のない支配、錯覚のような洗脳が誕生する心理状態を見せつけられる。その手口はいとも鮮やかで、あっという間の出来事に静かに鳥肌が立つのだ。

今年、私は様々な観点から戦争の実態を知る機会を得た。
貴重な歴史的資料から学べるのは、立場の違いに関係なく、ある種の思考に支配されていることだ。愛国心、忠誠心、信頼感、仲間意識、民族としての誇りなど、本来は疑う必要のない感情や価値観が、見事にコントロールされてしまっている。「勝利」のためなら手段を選ばず、良心さえも抑圧される。思考も感覚も麻痺してしまう、あるいは麻痺させなければ自分を保てないような現実。大きな組織の前に、主張を許されないアイデンティティ。
一概に勝者と敗者、強者と弱者という単純なカテゴライズはできない。
それぞれの立場で希望と絶望を行き来しながら、今へと歴史を紡いできた人々。

戦争を経験した祖母の話を、これまでは昔話として聞いていたが、角度を変えて知識を得たことで、私はより共感しやすくなった。
戦争というあまりにも大きすぎる命題に対しては、一言では自分の気持ちを言い表せないが、これからも機会があれば学んでいきたいし、その度に受取り方も変化していくだろう。
たった23分間で人生が変わるのは、戦争時に限らず日常的なことだ。しかしその時に、自分で考えて判断し、行動できるような力をつけていきたい。