巡礼の夜

どこか静謐なる道程を、歩いているように感じる。新しい土地を踏む時、しかし同時に何かをなぞるような既視感も漂う。清くも古いいつかの約束を果たすように、また今を刻む一歩でもあるように、二重螺旋の階段を少しずつ進む。
遺伝子に組み込まれているような旅絵巻。
そこにも小さな縮図がある。

音さえ吸い込むような地の深く、漆黒に澄んだ空気には混じり気のない感情がよく似合った。
巡礼の夜は、私を無音のゴンドラに乗せて、ガスの立ち込める山頂へと送り届ける。
止められないスピードに身を委ねる心地良さが、あの秋の夜を彷彿させる。此処ではない何処かへ行く為にあった夜。月が低く見える。
後ろを振り返る必要もなく、足どりは軽く、頭上を覆う夜空ではなく足元に星は咲き乱れ、軌跡が厳かな舞になる。
上ではなく下を見てほしい。
そう、足元を見てほしい。
繋がっている雲路の先に散りばめられた欠片たち。
ほら、求めていたものは確かに此処にある。

ネオンの灯りなどいらなかった。
はっきりと彩られていた。
瞬きよりも優しく、祈りよりも確かに胸に刻まれる瞬間があったら、旅の縮図もまたアラベスクのように毅然に美しく残って行くのだろう。
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